核酸認識系Toll-like receptorの応答制御に関する新規分子の解析

福井 竜太郎
(東京大学医科学研究所 病因・病理学専攻 助教)

2014年7月25日金曜日

遺伝子改変マウスができました?

先日、遺伝子改変マウスを作るためにES細胞を培養して・・・ということを書きましたが、本日ようやく遺伝子改変マウスを受け取ることができました。
これできっと研究も進む・・・と思いたいのですが、まだまだ気が抜けません。
今回は、どのようにして実験に使える遺伝子改変マウスを得るのか?ということを書きます。
少しわかりにくい部分があるかもしれませんので、その場合は遠慮なくコメントで質問して下さい。

今のところ、マウスは「キメラマウス」と呼ばれる状態で、ES細胞由来の細胞(変異アリ)とシストブラスト由来の細胞(変異ナシ)が混ざっているようなマウスなのです。
すなわち身体の一部は遺伝子に変異があり、その他の部分は変異がない状態でして、これでは研究ツールとして使い物にならないのです。
特定の種類の細胞のみに変異が入っている、というような状態ならば良いのですが、キメラマウスの場合は特定の細胞を選んで変異を起こす、というようなことができません。
そうなると、全身の細胞に遺伝子変異が入っているマウスが必要になるのですが、そのためには運と技術が必要です。

これから行う作業としては、キメラマウスと野生型のマウス(遺伝子変異のないマウス)を交配させて、仔マウスを得ることが最優先となります。
もしキメラマウスの生殖細胞がES細胞由来であれば、仔マウスは全身の細胞に遺伝子変異を持つことになりますので、実験に使うことができるようになります。

ただし、哺乳類は母親由来の遺伝子と父親由来の遺伝子を持っているので、この状態では半分しか遺伝子変異が入っていない状態です(「ヘテロ遺伝子型」といいます)。
ヘテロ遺伝子型のマウス同士を交配させて、両方の遺伝子が変異を持っている状態にする必要があります(「ホモ遺伝子型」といいます)。
このようなマウスが産まれて初めて、研究に使うことができるのです。

さらに悲しいことに、こうして苦労してマウスを作っても、何の結果も出ないことがあります。
細胞単位で見られた現象が生体になると見られなくなってしまう、ということはよくある話でして、ある意味では生命科学の面白さなのですが、研究者にとっては頭の痛い問題です。

なお、この一連の作業にかかる日数ですが、最短でこんな感じです。
・変異の入ったES細胞を得るために1ヶ月
・シストブラスとへの注入からキメラマウスが産まれるまで1ヶ月
・キメラマウスが生殖可能になるまでに6週間
・ヘテロ遺伝子型のマウスが産まれるまでに1ヶ月
・ヘテロ遺伝子型のマウスが生殖可能になるまでに6週間
・ホモ遺伝子型のマウスが産まれるまでに1ヶ月
・実験に使えるようになるまでに数週間以上(場合によっては1年くらい)

とういわけでして、うまくいったとしても半年以上もかかってしまうのです。
しかもヘテロ遺伝子型のマウス同士を交配させてホモ遺伝子型のマウスが産まれるのは1/4の確率、母親マウスが産む子供の数は10匹前後なのでホモ遺伝子型のマウスは2匹程度しか得ることができません。
最近は技術が発達して、いきなりヘテロ遺伝子型のマウスを得ることができるようになりましたが、それでも3ヶ月以上かかるわけでして、生き物相手の研究は実に時間がかかります。

最近は研究に対してスピードが求められる時代であり、そのような風潮の中で少々言い訳がましいところもあるのですが、殊に生命科学系の研究については長期的な視点で温かく見守って下さると嬉しいです。

2 件のコメント:

  1. マウスでもそんなに長いことかかるのでしたら、それが人間で実験可能になるには、気が遠くなるような時間がかかるし、それが実用化・応用化されることってあるのかな?という感じですね。そういう意味だは、iPS細胞のようなものは、実験期間を大幅に短縮できるし、倫理的な面もクリアーできるので、やはりすごい発見ですよね。
    実験できないものもいろいろあるのでしょうが、マウスでなく、ヒトの細胞でそれが出来るのは、やはり素晴らしいことですね。
    生命科学、医学の分野は、”今まで、わからなかったことの発見”となる感じでワクワクしますね。
    3年前のJapan Prize共同受賞者のDr.Janet Rawley博士(昨年末お亡くなりになりましたが。。)が、来日の際の記者取材で、”Everyday, we learn how much we did not know"とおっしゃっていました。
    地道な研究の成果が大きな成果になるのでしょうから、
    世界中で情報のシェアをしないと、やっていけないですよね?
    頑張って下さい。

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  2. そうですね。iPS細胞は臓器や細胞の作製につなげることができるので、ex vivoの実験までは研究期間を短縮することができると思います。
    ただし、どうしても個々の臓器や細胞と「生体」との間には大きな乖離がありますし、ヒトの生体を実験に使うわけにはいかないので、今後もモデル動物は重要な位置づけになるのではないかと思います。

    個人的には、モデル動物がコンピューター上で超高精度にシミュレートできるような時代が来て欲しいと期待しているのですが、細胞単位でも難しいので、まだまだ遠いのかもしれません。

    ひとまずは地道にがんばります。

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